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■季節のお酒

古来から、日本酒はさまざまな季節で飲まれ、その呼び名が決まっていました。


春のお酒
○桃花酒
「桃の節句」には甘い白酒も飲みますが、本格的には「桃花酒」を飲みます。古代中国の故事に、水に流れている桃の花を汲んで飲んでみたところ、気力が充実して三百歳まで長生きしたとあります。「桃花酒」は諸病を取り払い、顔色を麗しくするといいますから、桃の節句にはまさにぴったりの飲み物といえます。

○曲水の宴
中国から伝わってきた行事で、奈良・平安時代に、三月三日の「桃の日」または三月上巳の日に、朝廷や公家の間で行われた年中行事の一つです。流れる水のほとりに座り、上流から杯を流してその杯が自分の前を流れすぎないうちに、詩を作りながら杯をとってお酒を飲みそして杯を更にしたに流すという、なんとも風雅な宴遊の会でありました。本家中国では紀元前306年に行われたとありますから、とても由緒ある遊びです。

○花見酒
奈良・平安の頃から行われていた桜の花見。日本列島はいよいよ春本番を告げます。有名なものに、太閤秀吉の豪華絢爛な「醍醐の花見」がありました。江戸の頃は、小金井、御殿場、上野、向島が庶民のための花見場所として公開されました。娯楽の少なかった時代ですから、花見は庶民の最大のレクレーション場となり、賑わいました。「花より団子」とはここから生まれた戯れ語?花見グッズなる商品が売られる昨今ですが、花見と日本人は永遠に切れない関係にあるようです。

○入社式・新年度
春爛漫に迎える新年度。新たなスタートを祝して乾杯です。新入社員歓迎会では新人は先輩のお酒を見習うといいますから、諸先輩はくれぐれもスマートなお酒で歓迎いたしましょう。もちろんイッキ飲みは厳禁です。気候も良くなるこの季節は、卒業式、謝恩会、またクラス会など、大切な人たちとお酒を飲み、交流を深める機会が増える時期でもあります。

○菖蒲酒
「目に青葉・・・」の爽やかな季節。五月五日の端午の節句に菖蒲湯とはご存じの通りですが、「菖蒲酒」はいかがでしょう。燗をしたお酒の中に菖蒲の茎を浸して味わうもので、これを飲めば邪気払いになるといわれてきました。五月にふさわしい香りの高いお酒です。


夏のお酒
○初呑み切り
ひと春を蔵で過ごしたお酒の品質を検査し、成分を分析するのが「呑み切り」です。タンクの呑み口を開けることから「呑み切り」といい、最初の「初呑み切り」を六月頃に行います。その後毎月一回の呑み切りを経て、もっとも飲み頃になる秋に、日本酒はいよいよ新酒として出荷されます。

○夏越しの酒
六月の晦日に、半年間の汚れを流す意味から飲むお酒です。この時期は田植えも終わり、ほっと一息入れる時期。一緒に働いた牛や馬にもみそぎをさせて、そしてこれからの暑い夏を乗り越えるために祈りながら飲む、暑気払いのお酒でした。

○鰻酒
「土用の丑の日」とくれば鰻というのは、日本の常識。暑くて食欲もなくなるこの時期に、栄養十分な鰻を食べて元気回復という、日本人ならではの知恵でした。では「鰻酒」とは、蒲焼きを温めたドンブリにとり、熱燗をたっぷりと注ぎ、五分くらい蓋をしてからこれを飲みます。そして後に鰻も食べるという、何ともスタミナのつきそうなお酒です。

○冷やづくし
暑気払いには、冷やしたお酒が一番。ところで「冷や」といえば常温を意味し、「冷酒」というのは冷蔵庫で冷やしたり、氷を入れたものを意味します。そして冷やす表現は雪冷え(五度)、花冷え(十度)、涼冷え(十五度)といって区別します。極めつけは、カン・ロック。薄手のグラスに氷を入れ、やや熱めに燗した日本酒を一口少々で飲みきれる量を注ぎます。カラカラとグラスを振って瞬間的に冷えたところをクイッと頂きます。さらには冷蔵庫で凍らせておいたシャーベット酒なども、暑い夏こそ飲んでみたいものです。

○冷や奴
「冷酒」とくれば、冷や奴。これもまた日本の夏の定番です。豆腐は「畑の牛肉」とも言われる良質なタンパク質食品。冷やしても良し、暖めても良しとは、まさに日本酒にぴったりの酒の肴の優等生。「豆腐百珍」にもあるように、豆腐料理は昔から非常にたくさんあり、庶民の味として親しまれてきました。夏なら青紫蘇、茗荷を刻んでいただきましょう。

○お盆・夏祭り
故郷へ帰るだけでなく、海に山に、そして海外へと、お盆の休みはいまや民族大移動の代名詞。さて旅行に出て嬉しいのはその地のお酒に出合えること。普段口にしたことのないお酒や、その地方でしか飲めないお酒を飲むことができますから、チャンスは大いに生かしたいものです。また全国各地では夏祭りの真っ最中。浴衣に下駄履き涼しげに、暑い夏の「祭り酒」を楽しみましょう。


秋のお酒
○月見酒
中秋の名月と言えば、旧暦の八月一五日。ダンゴ一五個と実りの初物を揃えて、さらにススキの穂など秋の七草を月に備える。そして満月の光を浴びながら酒を酌み交わします。夜露のついたものを食べると長生きするという伝説があるため、必ず屋外で行います。江戸の頃は、川舟を繰り出して賑わい、隅田川界隈の料理茶屋は大繁盛し、一晩のお酒の消費量は大変な数になったと言われます。月を見ながら、季節の変わり目をしみじみと味わうお酒です。

○十月一日は日本酒の日
十二支の十番目、酉の月の「酉」の字は、もともと壺を表す象形文字で、お酒を表しました。古代一年の始まりは冬至とされていました。またこの頃から新米が収穫され酒造りが始められることから、十月はお酒の月、十月一日が日本酒の日となりました。

○重陽の節句
旧暦の九月九日は、九というもっとも大きな奇数の数字が重なることから、「重陽の節句」と言われます。この日、長生きの効果のあるという「菊の花の酒」を飲む宴をはり、長寿を願い、災難を払うおまじないを行います。この日を境に、翌年の三月三日の「桃の節句」まで、日本酒はお燗にして楽しむのが正式です。

○熱燗・暖酒
電子レンジでチンとは電子レンジ燗。お酒の燗は昔は直燗といって直接火にかけて暖めていたそうですから、あながち手抜きではないようです。さてこのお燗、百度と零度の間だからカンとか、冷と熱の間だからなどの説があります。三十度前後の日向燗、三十五度くらいの人肌燗、四十度前後のぬる燗、四五度前後の上燗、五十度前後の熱燗、五十五度以上のとびきり燗とは燗づくし、お酒を暖めて飲むこのスタイル、何とも心を和ませ、ほっとさせてくれる、日本酒ならではの楽しみです。

○冷やおろし
冬から春にかけて造られた新酒が蔵の中で静かに息づき、夏を経て熟成した味わいとなって出荷されるのが「冷やおろし」です。酒蔵は夏でもかなり涼しく、保存されているお酒は、真夏でもさほど温度は上がりません。それが外気も冷えて酒の温度と同じくらいになった頃、気温による酒の変化の心配がないとして「火入れ」をせずに出荷されたものです。

○鍋と日本酒
旬の日本列島、土地の数だけ自慢の鍋料理があるくらい、鍋は秋から冬への風物詩。熱燗と一緒に楽しめば心身ともに暖まります。鍋料理は栄養のバランスが良い上にカロリーが少ない健康料理。お鍋に少量の日本酒を加えると、味の方もグンとアップしますから、お試しください。


冬のお酒
○除夜の酒
文字通り除夜の鐘を聞きながら、一年を振り返るとともに、新年の誓いを新たにする「〆のお酒」です。お蕎麦をつまみに、しみじみと日本人を実感したいものです。

○屠蘇・年酒
年頭に一家そろってお祝いする屠蘇は、もともと「蘇」と言う悪鬼を「屠る」と言う意味で、十種に近い薬草を浸した酒を飲むという中国の風習をまねたものです。日本では平安初期に宮中で行われ、やがて民間に広まりました。味醂に屠蘇散を浸すようになったのは、明治になってからで、もともとはお酒を用いました。年賀の客には、初献に屠蘇を供し、後は酒にするのが正式です。こうして年始の客に勧める酒を「年酒」といいます。

○新年宴会
年の初めにトシの神(正月様)を迎え、悪魔を払って新年を祝うという新年宴会。トシの神とは「お米の神様」、お酒とは切っても切れない関係でした。戦前は一月五日は国民の祝日で国を挙げて新年のお祝いをしました。このときに飲むお酒は、一年の計を定める「祈願のお酒」、厳粛にいただくとしましょう。

○鏡開き
鏡開きは、祭壇にまつった鏡餅を、御神酒と一緒に祝って食べる行事です。「餅を切る」とは縁起が悪いので、その言葉の代わりに「開く」を使います。蔵元では蔵開きと言って、新年に初めて蔵を開くのを祝う習慣もあります。転じて、おめでたい席で「日本酒の鏡開き」が行われます。酒樽の蓋が丸くて平らなことから鏡と呼ばれます。樽酒は杉の香りが楽しめますが、同じ樽から汲み交わすその仕草が、友情や親愛を深めます。

○祝・成人の日
晴れて大人の仲間入り、日本酒解禁です。武家の元服式から始まったこの儀式は日本酒を飲んで祝うのが正式です。ところで「お酒は二十歳になってから」は、身体のためにも精神のためにも科学的に根拠のあるもので、未成年者の飲酒は絶対に慎まなくてはなりません。

○雪見酒
 何とも風流なこの習慣は、平安の頃、あの紫式部も行っていたと言われます。当時は雪の中を、わざわざ牛車を仕立てて野山に出かけたり、江戸の頃には船を出して雪を楽しんだと言います。降り積もった雪をコップにギュッと詰め、その上からお酒を注ぐ「雪割り酒」という飲み方があります。一つお試しを。

○ひれ酒
乾燥したふぐのヒレを焦げ気味に炙って熱燗に注いだものです。その何とも言えない香りは、まさに粋人ならずとも、冬の味覚として愛飲されています。同様の変わり酒に「カニの甲羅酒」、「骨酒」など。いずれも寒い季節に燗酒を楽しむおつな習慣です。

【出典】もっとお酒が楽しくなる「日本酒読本」(日本酒造組合中央会)



任意団体 蔵元青年の会 ■本 部:京都市伏見区上板橋町 吉村酒造株式会社内  ■事務局:徳島県三芳郡池田町 三芳菊酒造株式会社内
管 理:オフビート  制 作:ハイファイブ ■東日本支部:岩手県紫波郡紫波町 月の輪酒造店内